Jekyll&&Hyde

昨日は晴れ、今日は朝。

環境ロマンスカー 1号車

 私たちのルーツは150億年前のビッグバンにある。

 でも、そう言ってもあらかたの同意を得ることはできないだろう。なぜなら、ビックバンは今から150億年も前のことだし、星も誕生していないし、ビッグバンから暫く経った後も温度は数億℃だった。そんな時代のことが現代の私たちに影響を及ぼすはずは無い、と誰もが考えるからである。

 新幹線で東京から大阪に行ったとしよう。その人は次に大阪から東京へ帰ってくる。東京から大阪に行ったらそのまま東京へ帰って来ることができないということは無い。もちろん、本人が大阪で恋人を見つけてそのまま生涯を送ることはあっても、東京へ帰りたいと思えば帰ることができる。

 それは「場所」(位置)というものが「やり直し」が効くからだ。東京から何回でも大阪に行くことができるし、東京の中でも渋谷に何回でも遊びに行くことができる。最初に渋谷に行った時、何が何だかわからずに帰って来ても、何回も渋谷に行く、つまり「やり直し」をすればそのうちに渋谷のことは隅から隅までわかるようになる。

 ところが時間というものはやり直しが効かない、今日から明日に行くと、明日から今日に帰って来ることはできない。今日から明日に行った場合は、次は必ず明後日だ。だから、今日やったことが不十分だったとして、次の日に反省しても今日に戻ってやり直すことができないのだ。

 つまり「時間」は「場所」と違ってやり直しが効かないから、時間を場所で例えれば、渋谷には一回しか行けないということになるし、大阪にも一回しか行くことができない。だから「日々新た」であって新しい時間には慣れることはできない。

 この「場所(位置)」と「時間」の関係はビッグバンで創り出された。一見して何も見えない暗黒の宇宙に突然、激しい爆発が起き、「何も無い」ところから「物質」が生まれ、突然、時間が動き出したのだ。その時間は「先へ先へ」と動き、決して元には戻ることが無かった。

 この激しい爆発をビッグバンと呼ぶのだが、その前に何があったかはわからない。人間の頭、現代の科学では「何も無いところから、ある時に爆発が起きて、物質ができ、時間が動き始めた」ということがわかっているだけである。いわば、科学版「創世記」である。

 私たちは五体満足であれば歩くことができるが、これは不思議なことである。歩くためには左足を前に出した後、右足を出さなければならない。右足を出し、次に左足を出して、それでやっと歩くことができる。

 このような動作が可能なのは「時間が先へ先へと進むから」に他ならない。突然、時間が止まったり、逆に動いたりすると足を前に出せなくなるので、転ぶか、何が何だかわからなくなるだろう。

 時間が先へ先へと進むということは、地球も動物も、そして人間も一回やったことを繰り返すことができず、慣れることも許されず、ただ先へ先へと行かざるを得ないことを示している。でも、それが進化の源でもあり、変化をもたらすものであった。そして現在の「環境」は「初めての経験」を繰り返しつつできあがり、その結果として、今、我々の前に存在する。

 私は時間が前にしか進まないことに深く感謝している。何しろ、少し前にやったことがどんなにまずくても、失敗しても、後戻りすることはできない。だから、失敗したら謝るしかないし、取り返しのつかないことが起こったら諦めるしかない。

 もし、時間が戻ったらどうなるだろうか?2月1日に取り返しのつかないひどいことが起こったとしよう。時間を1月31日に戻せるとしたら、その夜は思い出したくないほど苦しむだろう。

 この前、一回経験したあの苦痛、あの悔しさをもう一度味合わなければいけないのか!そう思って夜道を必死になって走る。もし、明日起こることを知らなければノンビリと夜のひとときを過ごしているだろうが、必死に走れば回避できると知った今では、どんなに辛くても走らなくてはならない。

 人間にとってそれは辛いことだ。そして走っても走っても結局、我が子の命を救うことができないと知った時、私は地面に伏し、どうしようもない絶望感のうちに暁を迎えるだろう。堅く冷たいコンクリート、寒風に吹き飛ばされる落ち葉がまとわりつく・・・

 私は高等学校の卒業式に呼ばれて祝辞を述べる時、時間というものの持つ意味を話すことがある。高校時代というものは、どの人にとってもほろ苦いものだ。それは成長過程の自我が悔やみを残すからだ。

「君たちは今日、高等学校を卒業する。喧嘩したことも憎んだ友達も、受験に失敗したこと、辛いことがあっただろう。でも、時間というのはそれを助けてくれる。時間は戻ってくれない。

 だから、喧嘩したこと、失敗した受験を忘れるのだ。時は戻らないから、忘れてしまえばその友達の顔は親しげに見える。失敗を忘れれば明日に向かって、新たな気持ちで生きることができる。過去は忘れよう!時間は追いかけてはこない」

つづく