Jekyll&&Hyde

昨日は晴れ、今日は朝。

環境よもやま話 その2  不法投棄

 数年前に九州のある市の環境行政のお手伝いをしていたことがあります。ある時、その市の環境部の方が私を山の方に連れて行き、そこで山の斜面に30個ばかりの廃家電が捨てられているところを見せてくれました。

 周囲はスギ林で、そこに細い道路が通っています。確かにどう見ても人通りが少なく、お金を払っていらなくなった家電製品をリサイクルに出すくらいなら、この山の中に捨ててしまえば、リサイクル料金の3500円程度が浮くわけですから捨てる方の気持ちもわからないこともありません。

 しかし家電製品をリサイクルすることが、現在では法律で決まっていて、国民としては守らなければならない義務の一つです。だからそんなことを言うと叱られるでしょう。

「武田先生、ひどいでしょう。」
とその市の環境部の方は私に言いました。私は、
「そうですね。」
と言いましたが、それだけではちょっと物足りないと思い、少し言い過ぎかもしれないと思いながら次の言葉を付け加えました。

「でも私が見るところ、ここら辺一帯は全部ごみ箱のように思います。このスギはずいぶん前に植林されて整備もされず使われてないわけですから形式的にはごみ箱かもしれません。ごみ箱に廃家電を捨てたのではないのですか?」

 私は、国や自治体が山全体を捨てているのに、個人が家電製品を捨てるのが悪いと言うのはどうかと思ったのです。

 私は、この理屈が少し飛躍していることはわかっていました。でも環境問題というのはこのような事が本当に多いのです。表面上は大変に綺麗事を言っていますが、その実態は必ずしも言った通りでないということが、この「家電製品の不法投棄」と「捨てられた山林」によく表れていました。

 家電製品のリサイクルには大きな矛盾があります。家電製品のリサイクルが始まる前には、全国平均で1台当たり500円で処理をしていました。ところが家電製品のリサイクルが始まると、一気にその7倍の3500円になりました。日本の国民はおとなしいので500円が突然、3500円になっても「環境に良いのなら仕方がない」と諦めました。

 しかし同じ事をするのに、500円が3500円になって環境に良いはずはありません。差額の3000円はどこに行ったのでしょう。そしてそれまでは自治体が500円かけて処理していたわけですから自治体が使っていた税金は市民に還付されたのでしょうか。

 不法投棄が良いとは決して言えませんが、不法投棄を咎めるなら咎める人が悪いことをしていないということが前提だと私は思うのです。

 もう一つは森林の問題です。日本では森林を守ろうということで紙をリサイクルしています。小学校では大まじめにアマゾンの森林をどう守るかという教育が行われています。

 しかし環境というのはもともと自分たちの国や自分たちの周りの環境を守るのに力を注ぐのが第一です。そしてもし自分たちの身の周りの環境を守ることができれば、そこで初めてアマゾンの森林を心配しても良いと思います。

 日本の森林は国土面積の実に70%程度を占め、森林の多い県では80%に達します。つまり、国土の3分の2が森林ということですから、日本人は森林をとても大切にしなければいけないということがわかります。

 しかし最初に話題に出した九州のある市のように森林は戦後にスギを大量植林した後、ほとんどそのまま捨てられています。間引きや枝打ちもしていないので森林は荒れ放題です。しかも天然林ではないので生態系も破壊されています。

 天然林は広葉樹が多いので、そこでは木の実が生り、動物が繁殖して鳥がさえずり、全体としての生態系をなしています。しかし人間が植えた植林はそういうことはありません。日本人は人工林を作るのですが、生態系にはまったく注意を払わないのです。

 紙をリサイクルする目的は森林の保護といわれますが、日本人は自分たちの森林を保護せずに、どこの森林を保護しようとしているのでしょうか。そういう全体的な道徳の破壊、環境倫理の破壊というものが不法投棄を招いている、もし不法投棄を取り締まろうと思うのだったら、取り締まる側が環境を守らなければならないと私は思うのです。

おわり