Jekyll&&Hyde

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原子力を考える(7)- イランの原子力開発 -

 イランの原子力研究の中心は、テヘラン原子力研究センターとエスファハーン原子力技術センターで出力5MWの米国製研究炉があり、1980年代にアルゼンチン製の燃料(20%濃縮ウラン)を入れて運転をしている。この原子炉は1967年にアメリカから技術供与を受けたものだ。

 また、原子力研究センター内のイブネ・ハイサン・レーザー技術研究所でレーザー法によるウラン濃縮や核融合の研究を行っているとされている。

 エスファハーン原子力技術センターも研究員3000人と言われる大きな研究センターで、出力27kWの中国製小型中性子照射炉と零出力重水炉、それに準臨界炉2基と研究炉が4基、さらに出力27MW(MWだからkWの1000倍)のプルトニウム製造炉もあると考えられている。この研究センターは、有名なホメイニ師の指導でできたものである。

 いずれにしてもイランは大国で歴史も古いことから原子炉の数もかなり多い。北朝鮮が2つの原子炉を持っているのに対して、10基程度の炉があるとされている。

 商業用の大型炉としては、ペルシャ湾岸のブシェールに1975年、ドイツとフランスの技術で100万kWの原子炉2基の建設を開始したが、イラン革命で建設を中断し、その後ロシアがロシア型軽水炉の建設を進めている。

 この原子炉は当初、2003年から稼働する予定だったが、それが2006年に伸び、近々運転を開始すると言われている。この原子炉は海岸にありペルシャ湾から見えるそうだ(筆者はまだ肉眼では見ていない。)

 一方、原子炉を運転するウラン原料は、ウラン鉱石―イエローケーキ濃縮―加工という順番で燃料棒になるが、このうち、イエローケーキを作ったり、濃縮ウランを加工するのは「通常技術」だから、簡単に表現すればどこでもできる。ウラン原料を作るための「原子力技術」は「濃縮」だけである。

 ウランで言う「濃縮」とは「濃縮ジュース」のような濃縮とは違い、ウラン同位体を分ける事である。だから正しく言えば「ウラン同位体分離」と言った方が良いのだが、アメリカが最初にuranium enrichmentという用語を使ったので、enrichment、つまり濃縮と呼ばれている。(ちなみに反対の操作はdepletion、つまり「減損」と言われる)

 ウランの濃縮は、ガス拡散法、遠心分離法、化学交換法、そしてレーザー法などで行うことができる。いずれも平和用、軍事用共に濃縮ウランを作ることができるが、軍事用の高濃縮ウランが出来やすい順序では、レーザー法>遠心分離法>ガス拡散法>化学交換法、の順序である。

 非常に簡単に言うと、ウラン同位体にはウラン238ウラン235があるが、「燃えるウラン」はウラン235である。ところが、天然のウランの中にウラン235は僅かに0.72%しか含まない。平和用に利用するにはそれを3%まで濃縮すれば良いが、軍事用では90%まで濃縮しなければならない。

 ということは何回分離すれば90%になるかが問題だ。平和利用では濃縮度(3%とか90%とか)が低くても量が多いことが大切だが、軍事用では量は少なくても濃縮度が高いことが求められる。そこでレーザー法がもっとも軍事利用に向き、化学交換法がもっとも平和利用に向いている。

 ザッと数値を示すと、一回に分離する程度(分離係数)は、レーザー法が15, 遠心分離法が1.5, ガス拡散法が1.004, そして化学交換法が1.001 である。濃縮度の上がり方は分離係数のln(対数)で決まるから、この4つの方法の「濃縮のしやすさ」は3:0.4:0.004:0.001, つまり3000:400:4:1となる。

 レーザー法と化学交換法では3000:1だから、化学交換法が頑張って3000回分離するのと、レーザー法が1回分離するのとで同じ濃縮度のウランができる。採れる量は反対に化学交換法が3000キロの時、レーザー法が1キロになる。

 そこで爆弾のように「少量でも高濃縮」を希望する場合はレーザー法を選び、平和用しか利用しない場合は量が欲しいので化学交換法を選択することになる。原子力技術は基本的には「軍事用、平和用」という区別は無いが、「どちらがやりやすいか」ということまで考えると少し違いがある。

 例えばあまり政治力も技術力も無い国が手っ取り早く原爆を作りたいと思えば、「天然ウランを燃やすことができる黒鉛減速型原子炉を動かしプルトニウム239を取り出す」というのが一番手っ取り早い。爆弾を作る時には、天然ウランを外側にしてプルトニウムを内側におけば原爆になる。

 大がかりに爆弾を作ろうと思えば、何万台という遠心分離法のウラン濃縮設備を作り、量産するか、濃縮ウランを使った軽水炉を運転しながら国を発展させ、ついでにウラン爆弾やプルトニウム爆弾を作るという方法もある。

 話は、元に戻るが、ウラン濃縮方法として現実的な技術としてはガス拡散法と遠心分離法が実用化されているので、このどちらかを選ぶとしたら小規模で高い濃縮度のウランが得られる遠心分離法が良い。分離係数が400対4だから100倍ほど違う。

 そこで、パキスタン北朝鮮も、そしてイランも遠心分離法を選択している。3ヶ国とも軍事用だけに使用するのかどうかは別にして、どうせなら平和用も軍事用にも使える方が融通が利くからである。

 イランの場合は、平和目的か軍事目的かはハッキリしないし、フランスとの関係が深かったからフランスが実用化しているガス拡散法の濃縮工場を建設しようともしている。現在は、イラン革命で計画は中断し、結局はパキスタンやヨーロッパ、そしてソ連などから遠心分離器の技術を入れて、遠心分離法を実現している。

 つづく